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時代とともに生まれるゲーム制作の課題を「効率化」によって解消したい
他分野との交流、経験が
社会に出てからも財産になる

ゲームエンジンのパイオニア「Unreal Engine(アンリアル・エンジン)」を生み出したEpic Games社。効率よく質の高いゲーム開発ができるツールとして数々の名作誕生に貢献し、近年は自社ゲーム「Fortnite(フォートナイト)」や、「Epic Gamesストア」など幅を広げる。Epic Games Japan代表・河﨑さんが見る理念、心構えとは?

特別講師

代表
河﨑 高之

マイクロソフト、スクウェアエニックスでプロデューサーとして数多くのゲームを制作した後、2009年Epic Games Japan設立に携わる。現在は、「Unreal Engine」のライセンス営業や「FORTNITE」の販売 など日本市場向けの業務全般を担う。

学生

  • 3年ゲームプログラマー専攻 岩崎さん
  • 3年ゲームプログラマー専攻 藤田さん
  • 2年スーパーCGクリエイター専攻 萩原さん
  • 2年CG映像クリエイター専攻 岡田さん
  • 1年ゲームプログラマー専攻 イ さん
  • 1年スーパーCGクリエイター専攻 加藤さん
  • 1年CG映像クリエイター専攻 小林さん

スタートはディベロッパーから。公平な信念に基づき、ビジネスを展開し続ける

学生

御社の歴史や理念、社風などを教えてください。

河﨑

Epic Gamesの本社は、アメリカのノースカロライナ州にあります。創業者であり現社長(CEO)のティム・スウィーニーが1991年、自宅のガレージでゲームを作ったところから始まった会社です。PCゲームの「Unreal」や「Unreal Tournament」、Xboxの「Gears of War」などのゲームを制作しながら、Unreal Engineといったゲームエンジンを提供して現在に至っています。会社としては、ティムの価値観やビジョンを実現させることが大きなミッション。彼は正義を重んじるフェアな人なので、非常に正直なビジネスをしていると思います。社風や雰囲気は、とにかく変化が大きくて次から次へと新しいことが起きる、退屈する暇もない会社ですね。

学生

どのようなお仕事をされているかを教えていただきたいです。

河﨑

Epic Games全体でいうと、もとはゲームを作るディベロッパー(開発)です。そこから発展する形でUnreal Engineというゲームエンジンが生まれ、数年前から自社のゲームを販売するようになり、ゲーム業界でいうパブリッシャー(販売)の仕事が始まりました。2018年からはPC上でゲームが購入できる「Epic Gamesストア」を開始し、他社のゲーム販売や流通を担うプラットフォーマー(流通)の役割も担っています。ディベロッパーというコアな部分から、徐々に横に広がっているイメージです。これらのサービスの日本市場向けを担当しているのがEpic Games Japan。私はその全ての業務に関わっています。

自分が表現したいものと世間が求めるものをマッチさせるのがプロ

学生

Unreal Engineはどうやって生まれたのでしょうか?

河﨑

1998年に発売された「Unreal」には、オリジナルのマップやシナリオを作れるMOD(モッド)ツールが付属されていました。そのツールが好評で、多くのゲーム会社にライセンス化をしてほしいと言われて生まれたのがUnreal Engineです。当時はまだ“ゲームエンジン”という概念がなかったので、このMODツールのライセンス化によってUnreal Engine、並びにゲームエンジンがビジネスとして誕生しました。

学生

Unreal Engineでできることは何でしょうか?

河﨑

私たちが一番意識しているのは効率性を高めることですね。 例えば、PS3からPS4に変わると当然ゲームの細かさやボリュームは何十倍にも増えますが、だからといってその手間の分、たくさん売れるわけではない。むしろ市場から見るとコンソールの販売数は減少傾向にあるので、かけられる予算や時間は減るかもしれません。唯一の対策としては効率を上げることです。200人で作ったものと同じクオリティを100人で仕上げるための仕組みがなければ、制作が難しくなってしまう。そのソリューションとしてUnreal Engineを提供した背景があります。

学生

ゲームを制作する上で心がけていることがあれば教えていただきたいです。

河﨑

私がプロデューサーとしてゲームを作っていたのは10年以上前ですが、当時も今も感じているのは、ゲームはお客様あってのもの。自分が手がけているゲームが出る1、2年後に、お客様はどんなものを遊びたいか、どんなことに喜びを感じるのか、先を見据えた上で、人に喜んでもらうものを作るのがプロだと思います。クリエイターとして、自分が表現したいものや好きなもの、核となるものがあった上で、それらをお客様が求めているものとどうマッチさせて商品として落とし込むか。それがプロのもの作りだと考えています。

学生

3Dゲームを制作する際、勉強しておくべきことはありますか?

河﨑

プログラマー視点の話になりますが、3Dは計算の嵐です。例えば、この場所から撃った玉が、先のほうで動いているものに当たるかどうかの判定。これは三角関数を理解していないと計算できません。数学のベクトルや三角関数が身についていないとつまずくので、基礎的な数学の理解やスキルは必須ですね。

自分の作業を全体像からどう見るかでモチベーションも幸福度も変わる

学生

ゲーム業界に就職した場合、最初はどんな仕事をするのでしょうか?

河﨑

会社とチームによってかなり違うと思います。大きな会社に入れば、丁寧なところでは1〜2ヶ月新人研修があるかもしれませんし、小さなディベロッパーだと入社初日から作業の手伝いを任されることもあるでしょう。ケースによりますが、職種問わず共通しているのは、新人は細かい下積み作業から始まるということ。業界内で新人時代のよくある話として挙がるのが「3年間ずっと草ばかり描いていた」「樽のモデルだけを作っていた」と。これは笑い話ではなく、誰かがやらないといけないこと。ゲームに限らずどんな仕事にも当てはまりますが、一見つまらない仕事や重要に思えない仕事から始まるのが現実です。ただ、その渦中で「給料をもらうため」と思うか、「世界で最高のゲームを作る手伝いをしている」と思って仕事できるかで、モチベーションや自分の幸福度も変わってくると思います。目の前のことだけでなく、より高い視点で取り組めるかどうかが大切です。

学生

ゲーム制作、例えば「Fortnite」では、背景やキャラクターの動きをつけるなど完成までにどのくらいの時間がかかるのでしょうか?

河﨑

「Fortnite」は特殊なので一概に話すのは難しいのですが…例えばゲームに登場するキャラクターには、何種類ものモデルがあります。アップ用の解像度の高いモデルと、プレイ中に表示されるある程度の解像度のもの、遠景用に使う解像度の低いもの。それぞれをいろんなバージョンで作らなければなりません。PS4やXboxのキャラクターであれば、ブラッシュアップまで入れるとおそらく1〜2ヶ月はかかっていると思います。

ゲーム分野にとどまらず時代のトピックに沿った改良を続けていく

学生

Unreal Engineが使われた作品で、予想を超え「こんなことができるのか!」と驚いた作品があれば教えてください。

河﨑

最近、一番インパクトがあったのは、バンダイナムコから出ているARC SYSTEM WORKS開発の「DRAGONBALL FighterZ(ドラゴンボールファイターズ)」です。「GUILTY GEAR(ギルティギア)」というゲームと同じチームが手掛けているのですが、トゥーン(3Dのものを2Dアニメ風の作画にレンダリング)の表現やスピードは、弊社の制作チームも驚くほど、かなりインパクトがありましたね。また、少し違う視点では「エースコンバット7」。グラフィックのクオリティ、特に雲の立体的な表現がすばらしい。マッハで飛ぶジェット戦闘機なので非常に広い範囲をカバーしないといけないのですが、それを実現しつつ、3Dで雲も表現処理されているのはすごいと思いました。

学生

VRやAR、MRが出てくる中、今後Unreal Engineでの開発も増えるのでしょうか?

河﨑

ゲーム市場全体として、VRはひと段落した感じはありますが、2019年夏にバンダイナムコが池袋にオープンした「MAZARIA(マザリア)」に入っているタイトルのうち、おそらく8〜9割がUnreal Engineで作られていますし、日本のVRゲームにおいても活用例はかなり増えています。一方で、ゲーム以外の分野、いわゆるノンゲームと呼ばれる建築やシミュレーション、映像でも「Unreal Engineを使ったVRやMRを」といった話も出てきていますので、今後もどんどん増えると思います。

学生

今後、Unreal Engineに新しい機能の追加予定はありますか?

河﨑

もちろんあります。およそ3〜4ヶ月ごとに情報を重ねているので、今後もバージョンはどんどん上がっていきます。ここ数年のホットなトピックは、やはりリアルタイムのレイ トレーシング(ray tracing:光線追跡法)。現在は実験段階で、まだ製品化には至っていませんが、これからも力を入れていきたいですね。また、映像面でもより使いやすくなるような取り組みも始めています。弊社で提供しているツールセット「Unreal Studio」と、CADや映像制作で使われているツールとの連携を充実させるなど、今後も機能を追加していく予定です。

「なくてもいいもの」に対して楽しみに待ってくれているファンがいる

学生

作品として提出されるコードを見る上で、重視している点があれば教えてください。

河﨑

私はプログラマーではないのですが、業界の中でよく聞く話として「ソースコードがきれいに書ける人とそうでない人」の違いは厳然としてあるようです。「自分がわかればいい」と考えて作るのではなく、まずは他人が見ることを大前提に書くこと。これは仕事を始めてからも必要なことです。今はプログラマーひとりでゲームを作ることはほぼありません。大きいプロジェクトであれば何十人ものプログラマーが関わりますし、途中で人の入れ替わりもあります。誰が見ても読みやすいコードの書き方をしたり、わかりやすいように注釈を入れたり心がけることは、就職活動だけではなく、今後プログラマーとして仕事をしていく上でも大切なことでしょう。

学生

TECH.C.に期待することは何でしょうか。

河﨑

国際色豊かな学校ですよね。特に海外からきている学生たちはとても優秀で、真剣みが違う。強い思い入れと覚悟を持って留学してきている人が身近にいるというのは非常にいい刺激になると思います。また「滋慶学園」という大きなグループの中で、ファッション系や音楽系の学校とのコラボなど、違うジャンルの学生と触れ合ったり、プロジェクトを通じて交友関係を広げたりできる。これは他にはなかなかない強みです。社会に出てからはひとつの業界や会社で完結することもあるので、学生の間に他業種と交流できることは本当に貴重な体験だと思います。

学生

業界を目指す人にメッセージをお願いします。

河﨑

ゲームは、生きていくために必要なものではありません。なくなっても誰も困らないし、他に娯楽はいくらでもある。それにも関わらず、発売日を心待ちにしてくれるお客様、高いお金を払って買って、貴重な休日の時間で遊んでくれる方、おもしろかったと言ってくださるファンの方がいます。不要かもしれないものに対して、これほどまでに愛してくれる人がいることは貴重で、その意味では、目指しがいややりがいのある仕事だと思っています。プロのゲーム制作者を目指すのであれば、学生の間に1日2時間、365日毎日、言い訳なしで何かしらのゲームをしてください。実際にはとても大変なことですが、それをつらいと感じるのであれば違う仕事を探したほうがいいかもしれません。それほどの思い入れや愛がなければ楽しめませんし、成功するには難しい仕事だと思います。一方で、成し遂げることができれば必ず財産になる。ゲーム業界で仕事をしていく上での引出しは間違いなく増えます。社会に出るとますます時間はなくなるので、学生のうちに1年といわず、2〜3年と継続してみてください。